映画『サクラダリセット 前篇・後篇』

サクラダリセット 前篇

サクラダリセット 前篇

 
サクラダリセット 後篇

サクラダリセット 後篇

 

 「ゲーム的リアリズム」なる語が提起されて、それを基にして作品をそのように説明してみたり、或いはそれを逆に作品に生かすような流れがあるのだと思うが、この作品はその中でも典型だと思う。

と言いつつ、実は原作もアニメも見ていないので、この実写の限られた知識で色々言うしかない。

物語は住む人々が特別な能力を持つという街・咲良田。この手の「街」という範囲は、『仮面ライダーW』などにも「風都市」という形で登場する。というのは「大きな物語」が存立し得ない現代において、最も取りやすい大きな目的語が「街」なのだろう。『仮面ライダーW』では「風都を守る」というのが主人公の命題であり、本作では「咲良田を守る」というのが主題となる。

そんな街に住む浅井ケイには「記憶保持」という能力が与えられている。ここだけ聞くと頓珍漢で、「え? 記憶力が良いだけ?」と思ってしまいかねないが、そうではない。つまりこれは浅井ケイが「プレイヤー」であることを示す能力なのだ。

何かというと、この「記憶保持」が最も生かされる「リセット」という能力を考えて見ると分かる。この「リセット」という能力を持つのは春埼美空なのだが、この美空はケイの指示がなくては「リセット」ができない。また、「リセット」に付随して行われるセーブにもケイが必要だ。これはさながら、プレイヤーが「リセット」したり「セーブ」したりするのと酷似する。

そう考えると物語の見え方が「物語」から「クエスト」や「ミッション」の類に見えてくる。前篇で言えば「魔女と呼ばれる未来予知の能力を持つ女性を能力者を統制する管理局から救い出す」ことであり、後篇で言えば「咲良田から能力を消すという陰謀を阻止する」ことであった。

この点から二点に注目したい。

「リセット」と現実

「最近の若者は」と言われることがらはいくつかある。仕事ができないだの、すぐ帰るだの。その中の一つが「殺人事件」だと思う。

果して動機のない殺人事件が、最近の若者に特有で多いのかにはかなり疑問だが、「最近の若者は何を考えているか分からないから」などはよく聞く議論だ。

そんな中、殺人事件で現状を「リセット」しようとした若者などが現れ、「リセット症候群」という語もちらほら見え出した。かくいう自分自身も、高校進学と大学進学を契機に人間関係を「リセット」した口であり(前の関係を断絶したわけではないのだが)、身につまされる思いもある。

そんな中一時期、熱いキャラクターが「人生はリセットできねえんだ!」と叫ぶような作品が立て続いたわけだが、ここしばらくはそうではなくなったように見える。

例えば「Steins;Gate」がそうで、岡部倫太郎は何回だって「やり直す」わけだが、そこのパラレルワールドのロジックを持ち出すことで「実際には何も解決されていないのだ」という事情を背景に、逆説的に「実際の人生はやり直せない」ということを示唆する。あの作品を見て「人生をやり直したい」と思う人はかなり少ないだろう。

この「人生はリセットできねえんだ!」から「リセットするとこうなるけど何も救われてないんだ!」と言う方向になる。そして「リセットすると解決されるかもしれないけど、実際にはリセットが使えないから正直に生きよう」的に物語が展開していくのが本作ということになる。

「リセット」という概念は「タイムリープ」や「タイムスリップ」とは異なるので、そこには配慮の必要があるかもしれない……が、いくら何でも黒島結菜、時間を戻りすぎじゃないかな。

能力は「普通じゃない」か。

後篇にフィーチャーすると、物語は咲良田から能力を消そうとする浦地正宗との戦いに移る。

この浦地が「なぜ能力を消そうとするのか」と聞かれた時に「普通じゃないじゃない、それだけだよ」というように言う。実際には浦地の両親が咲良田の街の能力を保持するために眠らされている、みたいな事情が(多分)ある。

ただ「能力が普通じゃない」という話は、実はハッとさせられるところではないだろうか。つまり「能力」を個人に付加的なものと考え、その付加的なものを「普通じゃない」と見なすか、個人の中に取り込まれる一種の「個性」とするか。

「普通」って何なんだろう、という問いは、ここ数年あちこちで立てられ、「そんなものないのだ」と答えるなり、あちこちでそれなりの答えが導き出されている。しかし例えばマイナスに思われる障害などを「個性」と呼び、「普通」なんて気にしなくていい、のだとすれば、たとえ有利な能力であってもあくまで「個性」ということになるのではないか。

 

 

ということで、面白かったかと言われれば、うーん、そこそこ、という感じだと思うのだけれど、そういう展開上の特徴には考えさせられるところがあった。それでアニメを見たり漫画を読んだりするかと言われると……心底微妙と言わざるを得ない。何よりあのセリフの妙な「ブンガク」っぽさというか、いかにも感が、少し慣れないところでもある。